ログイン蒼鋼を求めたマリックが国へ到着したのは、ミアと別れてから七日が過ぎたころだった。
道中は砂と空、時折現れるオアシスしかない。目的地までの旅路はマリックにとって今までにないほどの退屈と孤独を与えた。行程の半分にも満たないあたりで投げ出し、国へと帰りたくなってしまったほどである。
なんとか耐えられたのは、純真なマリックが持ちえる未知なるものへの興味関心とミアへの思いが少々、自分自身のプライドが少々。そして、彼に仕える従順で聡明な者たちのおかげであった。
出来るだけ速く馬や駱駝を走らせた者、マリックを退屈させまいと下手な踊りを踊ったりカードやチェスで楽しませたりと娯楽を与えた者、砂漠の真ん中でも王宮と同じ食事を作った者、水や食料やあらゆる雑貨を持つ者。つまり、同行した従者全員に功労賞が贈られてしかるべきだと後に語られるほどの旅路であった。
かつて蒼鋼により栄えていたという国の門前に下ろされたマリックはそんな従者たちの努力など当然知る由もなく、しかし、彼らがいなければ自分はどうなっていただろうかと思いを馳せられる程度にはなっていた。マリックは珍しく彼なりの不器用さで従者らにぼそぼそと「旅も悪くなかったな」などと労いともつかぬ感想を述べた。
マリックは慣れない感謝から来る気恥ずかしさをごまかすように国の門戸を叩く。が、白と淡黄色の砂を塗り固めてできた大きな門はノックの音を簡単に吸収してしまう。
「おい! 誰かいないのか! 誰か! 俺はサラハの王子、マリック・ル・サーラであるぞ!」
マリックが大声をあげると、門の向こうからかすかな物音が聞こえた。砂を削るようなザリリとした足音である。
「おい! いるなら門を開けよ!」
しびれを切らしたマリックが言いながら門を思い切り蹴りつけると、呼応するように門戸が開いた。
マリックの前に姿を現したのは、骨と皮ばかりの白髪の老婆であった。くぼんだ目は濁っており、驚きで開かれた口元から歯が何本もなくなっているのが見えた。老婆の面持ちには希望と絶望がちょうど半分ずつ同居している。
「国の主に謁見したい」
マリックは気色の悪い老婆の姿を出来るだけ視界に入れぬよう努め、奥に広がる集落へと意識を向ける。
門の奥には風化した家々がポツポツと並んでいた。次いで、ミアの話に登場した広場らしき場所が目に留まり、たしかにここがあの物語と地続きであるとようやく実感できた。もちろん、物語のような祭りの賑やかさはない。どころかみすぼらしい老人や小さな子供が数えるほどいるだけだ。みな、外からの来訪者がよほど珍しいのかマリックたち一行をしげしげと見つめていた。誰も彼もが老婆と同じ、希望と絶望を半分ずつにしたような顔つきだ。光の宿らぬ瞳で見つめられるとさすがのマリックも居心地が悪くなる。
豊かなサラハとは違うと分かる。残酷な現実はマリックの心を揺らした。
突然訪ねてきて「国の主を」などと無礼極まりないマリックを上から下まで値踏みした老婆は、その身なりに納得をしたのか文句ひとつ言わずに歩き出した。ついて来いと言うようにマリックを振り返り、うやうやしくこうべを垂れる。
マリックは従者を何人か引き連れ、老婆の後をついて歩いた。道中、倒壊した家やほとんど死体と変わらぬ人々を見て目をつぶりたくなる。花はもちろん緑すらなく、永遠に砂色が続く。風にボロ布が舞い、それすらも惜しそうに見つめる老婆の横顔に痛みを覚えた。
マリックが通されたのはかつて城であった場所だった。栄華を極めた名残が白い大理石の柱からうかがえ、重厚な造りが風化の速度を遅らせていた。それでもマリックの住む城に比べれば小さく、町中にあるモスクのほうがイメージに近い。豪奢というよりは荘厳なところも、人の気配がなく薄暗い雰囲気も。
老婆は静かにかしずくと、それ以上は立ち入れないと言うようにピクリとも動かなくなる。城に向かって体を丸め、マリックと従者たちを見送るように頭を地に伏せた。
気は進まないが、ここからは自分たちで行くしかない。従者がひとり前に出て先導し、マリックを中心に前後を守る形で隊列を組む。マリックたちはひとつの塊となって慎重に進んだ。床に空いた大穴も、崩れた天井も、塗装の剥がれた壁も。すべてがかつての反逆を色濃く残したまま時を止めている。
国にたどり着きさえすれば、少しくらい蒼鋼が残っているはずだと思っていた。すぐにでも手に入れられるだろうと。しかし、この現状を見るかぎり雲行きは怪しかった。
「……薄気味の悪いところだ」
一秒でも早く帰りたい。眉根をひそめ顔をしかめるマリックに賛同するように従者たちもうなずく。もともと生物が暮らすには厳しい環境だからか人どころかネズミや虫すらいない。生命の気配を微塵にも感じられないのだ。そのことがなによりも恐ろしい。
マリックの歩調は自然と速まった。
マリックたちがようやく安堵の息を漏らしたのは、大広間から続く階段をのぼり終えた時だった。
階段の先、おそらく王の間と思われる大きな扉がどんと構えている。
扉は他と違って埃も積もっていない。人が出入りしている証拠だ。人の手の形に添ってメッキのはがれているドアノブからようやく人の気配を感じられた。よく見れば、扉のあちこちに彫られた模様にもわずかにメッキが残っている。昔はあらゆる場所に金の装飾が使われていたのだろう。かすかな栄光の名残をマリックは眩しく思う。
マリックに代わり、従者が扉をノックした。サラハでは目上の者に入室の許可を求める独特なリズムを伴った正式なノックだ。この国でも通じるのかはわからなかったが、しばらくすると扉の内側からかすかながら物音がした。
ギィと錆びついた蝶番が鳴り、扉が開かれる。
果たして、内から顔を出したのは凛とした顔立ちが特徴の青年であった。
「ようこそおいでくださいました。お出迎えもままならず、申し訳ありません」
「い、いえ、こちらこそ急に出向いてしまいまして……」
まさか青年が出てくるとは思わず、従者もたじろぐ。マリックは従者を押しのけ、ずいと一歩踏み出した。
「俺はサラハ王国の第一王子、マリック・ル・サーラだ。お前、名はなんという」
「僕はこの国を任されております、シュヤです」
「シュヤ……」
マリックが目を見開くと、シュヤは苦笑した。
「この国を破滅に導いた悪魔であり、多くの民を救った英雄でもあります。今は生贄の名です」
「生贄って……」
「王族はとっくに逃げおおせましたが、この国を出ていく力を持たぬ者もいます。そうした者の最後と、滅びゆく地を見定める役目を与えられたのです。僕が死ねば、他の子供がシュヤの名を継ぐでしょう」
「つまり、お前は王族ではないのか?」
「違います。ただ、最も健康的だというだけで代表に祀り上げられているだけの人間ですよ。どこにも行く場所がない者たちの精神的支えとして存在するだけです。マリック・ル・サーラ王子と言いましたね、あなたは何用でこのような場所に」
シュヤはすべての運命を受け入れた顔でソファに腰かけた。座るように促され、マリックも毛羽だったベルベットのソファに着席する。普段座っているものとは段違いに硬い。綿が薄くなっているらしく、木材の感触が直に伝わってきた。
マリックは不満を隠さぬまま、簡潔に目的を切り出した。外交など関係ない。この国はもはや滅びているも同然なのだ。
「蒼鋼が欲しい」
マリックの申し出に、今度はシュヤが不満を顔に出した。
「それはできません」
「なぜだ? 採掘を中止したことは聞いた。だが、洞窟はまだあるだろう? そこに少しくらいは残っているはずだ。もしくは、お前のような人間が隠し持っているか。それを分けてくれるだけでいい。なに、ほんの少しだ。一握りでいい。なにも全部よこせと言っているわけじゃない」
マリックの横暴な発言を聞いたシュヤの顔に憐憫が浮かんだ。臆せず首を左右に振るシュヤは、これまでにこうしたやり取りを何度かしたことがあるようだった。
「そこまでご存じなのでしたら、なおのこと蒼鋼がどこにもないことも理解されているはずです。サーラ第一王子、どうかお引き取りを」
シュヤはソファから立ち上がり、マリックから背を向けた。窓の向こう、バルコニーからは町が一望できるらしい。おそらく、王が代々カナリアの名を呼んだ場所だろう。開けっ放しになった窓から風が吹き込み、シュヤとマリックの髪をさらう。
シュヤの横顔に、マリックは確信した。
「……お前、嘘をついているな?」
マリックとて王族の端くれだ。たとえわがまま放題に育っていたとしても、陰謀渦巻く王宮の中で長い時間を過ごしてきた。嘘を見抜くことなど容易い。特に男は嘘が下手だと相場が決まっている。
しかし、振り返ったシュヤはまるでそんなことなど気にしていないようにマリックをあざ笑った。
「はは、だとしたらなんだと言うのです? あなたは僕らを殺す度胸がおありですか? この国を滅ぼし、砂に還すだけのご覚悟が」
シュヤの目は真剣そのものだった。すべてに絶望した暗い闇がどこまでも続いており、そのくせマリックにだけ希望を向けている。
――ああ、そうか。この国の人間は……。
マリックは目を逸らしたくなる気持ちをぐっと堪えてシュヤと目を合わせる。
砂に閉ざされ、蒼鋼に囚われたこの国の人間はみな、今なお自由を求めていた。
「それは素敵なお話ですね。なんだか水の精のお話みたい」 王宮へと戻り、早々ミアにバザールでのできごとを話したマリックに、ミアは興味津々といった様子で食いついた。「水の精?」「ええ、水を操る妖精たちのことです。水に命が宿ったもの、と言い換えてもよいかもしれません」「そんなものがいるのか? この世に?」「いるともいないとも言われていますが、いると思ったほうが楽しく生きられます」 ミアは意味ありげな妖しい笑みを浮かべる。まるで世界の秘密をひっそりと共有するような、心を許し合った者同士が内緒話をするような、心をくすぐる笑みだ。 マリックは降参を表すように両手をひらりとあげる。「しかし、水の精など初めて聞いたな」「そうなのですか? おとぎ話に出てきてもよさそうですが」「サラハにも妖精信仰の類がないわけではないが、多くもないからな」 マリックがあまりそうしたものに興味を示してこなかっただけかもしれない。 思えば、おとぎ話や物語に触れて面白いと感じたのはミアの話が初めてだった。 ミアはマリックの話に関心を寄せつつも何を思い出したか「そういえば」と切り出した。「砂漠のスコールもそうした妖精の仕業だと聞いたことがあります」「そうなのか? 初耳だ」 砂漠の民にとってスコールは慣れ親しんだ自然現象だが、そうでない者たちにとっては特別なものに思えるのだろうか。 噂や伝承は事実の中に奇跡や運命、ロマンを見出したものが作り上げるもの。&n
長い夏――乾季が終わり、サラハには雨季が訪れていた。 雨季といっても雨が降り続くわけではない。乾季に比べて明け方もしくは夕暮れ時のスコールが増えるくらいだ。気温もほとんど変わらず、むしろ雨のせいで湿気があるぶん蒸し暑さを感じることも多い。 マリックは群青色の髪から滴る雨粒と肌にべたりとまとわりつくような湿気をまとめて拭い曇天を仰いだ。ミアの待つ王宮に一秒でも早く帰りたい。気持ちとは裏腹に大雨が彼の足を止める。ここ最近はミアの顔すら見れていないのに。周囲の喧騒がマリックの急く心を一層苛立たせる。 彼は今、従者たちとともにバザールに駆け込み、買い物客とともに雨が通り過ぎるのを待っていた。 ここ数週間、マリックはさまざまな仕事に追われていた。まったく政治に参加してこなかったマリックだが、一国を買い取り、ダムの管理について協力を申し出た手前、さすがに何もしないわけにはいかなくなった。自らが撒いた種とはいえこれまで散々遊び呆けてきたマリックにはストレスのたまる日々。 今も蒼鋼の採掘所、すなわち洞窟の視察から帰ってきたところである。人を石へと変えてしまう洞窟は蒼鋼が他の材料にとって代わられているうえ、立ち入る人もいなくなった以上、悲劇を繰り返さぬために埋めてしまったほうがよいという結論になった。そのため、父である国王から直々にマリックが埋め立てにあたっての視察を任されたのである。 ミアと出会ってマリックは変わった。誰が見てもそう口をそろえる。マリックの変化は周囲の人々にも影響を与えた。幼少期からとことん甘かった両親もマリックを本格的に国王として推挙しようと遅すぎる教育に力を入れ始め、あらゆる仕事を叩きこもうとしている。マリックはマリックでなまじ素直に育ってきたものだから、結局両親の言うことには逆らえない。どれほど面倒な仕事だろうとわがままや不満を募らせようとも必死に食らいついて奔走した。 そんなわけで、マリックは一週間近くミアと顔を合わせていない。&n
久方ぶりの休暇を得たマリックはミアに王宮内を案内していた。 セシルとのことを思い返し、ミアをいつまでも部屋に閉じ込めていてはいけないような気がしたのだ。とはいえ街に連れ出して逃げられてもかなわない。悩んだ末、城内であれば問題ないだろうとマリックはミアを部屋から出し、宮殿内を散策させることにしたのである。 果たして、マリックは思わぬ収穫を得た。ミアの反応を通じて、やはりミアは外に出たがっていたらしいと知れたこと。王宮内が広いおかげで、街へ出さずともミアの気が紛れること。ミアの好きなもの――特に、王宮内の書物庫の数々に目を輝かせていた――を知れたこと。何より、ミアが珍しく笑みを絶やさず、美しい紫の瞳に好奇心や興味を宿しはしゃいでいる姿が見れたことはマリックにとって最高の思い出となった。 夕暮れ時、さすがに一日歩きまわって疲れ始めたマリックはここを最後にしようと庭園を訪れた。温室付きの広い中庭だ。開放感があり、たくさんの花々や緑に囲まれていて自然と心が安らぐ場所である。 きっとミアも気に入ってくれるに違いないとマリックは中庭へ足を向ける。 庭園にはちょうど西日が柔らかに差し込んでいた。どこか幻想的でありながら牧歌的な穏やかさを感じる光景にマリックの隣から息を呑むようなかすかな音が聞こえた。 見れば、ミアの横顔には感動がありありと浮かんでいる。「素敵……」 ミアの声は完全に惚けていた。相当お気に召したようだ。「中には休めるところもある。見ていくか?」「はい、ぜひ!」 ミアにしては珍しく食い気味な返事にマリックの胸がキュンと鳴る。普段の聡明で大人びている彼女からは想像もつかない子供っぽさがギャップとなり、親しみと愛おしさを増幅させた。
セシルを連れ帰った時のミアの反応は、マリックの想像以上だった。 マリックは彼女のアメジストの瞳がキラリと光った瞬間をこの先一生忘れないだろう。 涙ぐみ、嬉しそうにセシルの手を握ったミアは「ずっとあなたに会いたかったの」と彼女を歓迎し、セシルを連れ帰ったマリックに対しては一層深い笑みを浮かべてこれまでで最上級の感謝を述べた。「本当に、マリック王子に頼んでよかったです」 ミアは、まさにマリックの予想した通り、セシル自身を研究所から解放してほしかったのだと言った。続けて、マリックに「試すようなことをしてごめんなさい」と心から謝罪した。 ミアの泣きそうな顔を見ているとマリックも彼女を咎める気になどなれず、むしろ自分は信用されていなかったのだなと過去の己を恥じるほどであった。 次いで、自分がセシルを連れ帰らなかったらどうするつもりだったのだろうと考え――、その時こそミアは王宮を去っていたかもしれないと想像して恐ろしくなった。確かめるのが怖くて、マリックはミアに問いかけることを辞める。 それに、気になることは他にもあった。 なぜミアはここまでセシルに執着したのか。 この理由はすぐにわかった。「これをお渡ししたかったのです」 ミアが取り出したのは一枚の写真。とても古いもので色あせてしまっている。 セシルは写真を手にし、にわかに信じられないと口を開けたまま数秒ほどフリーズしていた。思考回路が停止してしまったかのように。 マリックは写真を覗き込む。 写っていたのは今と変わらぬセシルとひとりの男性だった。「これは?」
気づけば口を開いていた。「お前にも待ち人がいると聞いた。想い人を待っている、と」 なぜ自分でもそのような話をしたかはわからない。しかし、セシルの気持ちを知りたい、セシルを理解したいという思いがマリックの口から質問の形になって飛び出た。「辛くはないか?」 セシルを案じる気持ち。それは、今までのマリックにはなかった他人への気遣い。「ずっと、現れない人を待ち続けるというのは辛くないのか?」 マリックだったらきっと心が折れている。現に、先ほどまでミアとの約束を果たせそうにない自分が情けなかった。ミアと一緒にいられなくなってしまうかもしれないという未来を想像して泣いてしまいそうだった。満月を持って帰ることができなかったと告げた際のミアの落胆した顔を思い浮かべるだけで胸が張り裂けそうになった。 ミアが生きていてもそうなのだ。これでミアがいなくなったらと思うと……。 マリックはゾッとしてセシルからもらったばかりの満月のネックレスをぎゅっと握りしめる。 大丈夫だと言い聞かせ、セシルに目をやった。 想像しただけで身震いしているマリックに対し、セシルは穏やかなまなざしでひたすら想い人を待っている。永遠に。もういなくなってしまった人の帰りを待っている。いつか会えると信じて。 マリックには到底真似できない。「わたくしには辛いという感情がわかりません」 セシルは静かに答え「しかし」とマリックを見つめる。 ふたりの間にカランと氷の解ける音が響く。「そのようにおっしゃってくださったのはあなたが初めてです。そして、
あっけなく差し出された満月にマリックのほうが呆然とした。 だって、そんなのはおかしい。満月のネックレスはセシルにとっての命そのものなのではなかったか。それを外すということはすなわち自身の命を絶つことと同義。「お前……、何をして……」「これが欲しいのでしょう? 差し上げます」 先ほどリンゴジュースを差し出した時とまったく同じ動作で、セシルはマリックの前にずいとネックレスを突き出す。 マリックの目の前で満月が揺れる。セシルから離れたからなのか、青い月はだんだんとその色を薄くさせていく。 それがまるで命の終わりのように思えて、マリックはついセシルの手を押し戻した。「やめろ!」 よこせと言ったのは自分なのに。マリックは自分のしたことが恐ろしくなった。 一方のセシルは、よこせと言われたから差し出したのになぜ拒むのかと不思議そうにマリックを見つめている。 マリックはその視線に耐えられず、「……早く、ネックレスをつけ直せ」 とふてぶてしいまでの態度でセシルから顔を背け、祈るように目をきつく閉じた。 彼女がバッテリー切れで倒れるところなど見たくはなかった。 しばらくすると、チャリと金属のぶつかるような音が聞こえ、マリックはそれを合図におそるおそる視線を戻した。 彼女の胸元に青い月が輝いている。「外せと言ったり、つけろと言ったり、あなたは変わった人ですね」 セ







